(1)教師教育者の専門性向上に関する欧米の研究動向を分析し、日本の現職研修の特色、意義や課題、そして改善の方策を提案できる
(2)教師教育者の視点から現職研修の取組を観察・分析し、日本の現職研修の特色、意義や課題、そして改善の方策を提案できる
2022.1.28
本日は年度最後の授業でした。発表者の川上さんは「外部講師である教師教育者は学校や教師を変えることはできるのか」という問いに、教師教育者2人が「学校を変えるのは学校の役割」「研究者が学校を変えるってことあり得る?」と答えたことに対し「ならば、外部講師である教師教育者の役目は何なのか?その役目をどう果たそうとしているのか?」を研修を分析する中で明らかにしていこうとされました。
社会科の草原先生と国語科の難波先生の研修を分析された川上さんは、教師教育者の役割を「教師が自分で前進できるよう支援すること」であると見いだし、その方略は教師教育者自身のスタンスによって異なることを明らかにされました。草原先生は教師自身の自立性と授業への責任を尊重するために事前の指導案検討に助言を行わず、まずは教師のやりたい授業をしてもらうというスタンスをとっているのに対し、難波先生は事前の指導案検討から関わり授業の責任を共に背負うというスタンスをとっておられました。どちらのスタンスがいいかはそれぞれの先生方(の個性や経験年数)、研修がどのような場なのかにもよって異なります。改めて教師教育は多様な個性をもつ教師・学校現場、そして教師教育者によって変わってくることが分かりました。
授業の最後には「研修のスタートラインにたてない教師や学校に対し、教師教育者はどのような支援ができるのか」という議題について話し合いを行いました。
①教師教育者、研究者が自分の研究や可能な授業支援の形を学校にアピールする。
②校内にいる研究主任や管理職などが「この先生の研修は面白くて参考になるよ」「研修にきてもらおう!」と教師に研究者を紹介する機会を作り出す。
③勉強したいと思っている教師に好きな分野での研修を企画してもらい、同じことを学びたいと思っている教師同士の学びの共同体を作る。そして、その学びの成果を発表したり、研究論文への応募を勧めたりする場を紹介する。
といった、様々なアイデアが紹介されました。
1年間を通して現職教員研修をさらに向上させていくたくさんのアイデアをいただきました。特に、今日の「研究授業後の教師から分析シートや今の困りごとを聞き、それを教師教育者がコメントしたり、直接、教師とオンラインで対話をする」という研修は、前回、自分の発表で感じた「教師教育者から現職教員への研修後のフィードバック・評価をどう行うか」に応えるものでした。これまで学んだ理論やアイデアを今後自分たちが教員研修をデザインする際に活用していきたいと思います。【文責:池田 優子】


2022.1.21
本日の発表は社会科以外の教科の教員も参加する研修でいかに教師の専門性を高めることができるか、について高等学校の研修の様子からの分析を吉田さんが、小・中学校での研修の分析を池田が行いました。吉田さんは研修での先生方の発言を丁寧に文字起こし、データ分析され、教師教育者自身が他教科との関連をどれだけ意識しているかによって、専門性に依った話になるか、非専門教科の話も多く含まれるか違いが生じていることを明らかにされました。高等学校はどうしても教科の専門性がより強く出るため、「なぜ文系の先生と理系の先生が一緒に研修を受けるのか」といった疑問が教師の中に湧いてくることもあります。こうした教員に対峙する教師教育者は①どの教科にも精通したエキスパートをめざすのか。②あらゆる教科に係わる最大公約数になる論点を示すオーガナイザーをめざすのか。それぞれについて検討しました。
小・中学校の教員が参加する道徳研修と授業づくりの研修を分析した池田は、自身の経験から、多様な教科、校種が集まる研修で専門性を高めるため、学校文脈が把握しづらい教師教育者に研究主任がどのような情報を共有して共に研修をデザインする方略や、それぞれの教師が日常で研修での学びを実践した際の評価の在り方について議題を提示しました。研修での学びを自分事として捉えられるように、「自分なら授業でどうするか」を考えてもらう問いかけを教師教育者が行っている、という工夫が見られましたが、さらに参加者にマインドセットを行う、学校教育目標を尋ね自身の教科ではその達成のためにどう実現しているか振り返らせる、といった具体的な提案を受講生の方から頂くこともできました。外部の教師教育者の力をきっかけとして、学校側で教師一人ひとりがもつ強みを生かせる継続的な研究授業や教員研修をデザインできるよう、自分も今回の発表で学んだ視点を生かしてみたいと思います。【文責:池田優子】


2022.1.7
本日の発表は「附属学校の研究大会は教師の専門性をどのように高めているか」についてでした。冒頭で、各受講者たちが「附属校の研究大会に参加したことがあるか。参加した目的は何か。」リフレクションを行いました。自身の教育実習で指導してくださった先生が実際にはどのような授業をしているか見たかった、附属校の授業実践を見て、日常の自分の授業に新たな刺激を得るため、といった様々な目的が共有される一方で、研究大会の情報を知らなかった、自分が参加してもいいのかと躊躇したという声もありました。
本日の発表者である加藤さんは研究大会に参加された現職教員の方へのインタビュー調査を行い、参加する側に「自分ならどうするか」というアンテナや、日常と異なる実践を学びたいという意欲があるかどうかがカギになるという主張を示されました。附属校の研究大会が現職教員や大学生たちにとってスムーズに参加できる学びの場になるために、今後の研究大会はどうあるべきか。参加者が授業の協議や講演会を聞くだけにとどまらず、付箋やホワイトボード、タブレットを用いてそれぞれの感想や意見を出しやすくなるような工夫も今後は必要ではないかという案がだされていました。【文責:池田 優子】


2021.12.24
本日の発表者である田中さんは小・中学校教員に向けて行われた草原先生の研修の様子と、高等学校で行われた川口先生の研修の様子を比較・分析されました。既有の知識やイメージを揺さぶる授業づくりの理論を、教師との問答を通して経験してもらう草原先生の手法と、「なぜ先生はこのワークシートを使われたのですが?」と教師に問いながら、授業の意図開示を行っていく川口先生の手法になぜ差が生まれたのかを検討しました。その結果、受講する先生方の校種や、年齢層、経験年数、人数、レディネスによって研修の目的や内容、方法が変わってくるということが明らかになりました。草原先生も川口先生も、現状の1歩先を見せられるような研修を先生方の反応を見ながら臨機応変に研修を構成していらっしゃり、生徒の反応を見ながら教師が授業を修正していくのと全く同じだなと感じました。【文責:池田優子】


2021.12 .10
本日の発表者である野瀬さんは,社会系教科教員を志望する学部二年生が受講している草原先生(地理歴史科教育論)と川口先生(公民科教育論)の授業を取り上げて分析を行いました。
「社会科教育を通じてどのような子どもを育成したいか」という信念を明らかにさせた上で授業案を考えさせる草原先生と、自らの教材研究をモデリングとして見せ、授業を目的・・内容・方法から見ていく重要性を示した川口先生の様子から、同じ社会認識系講座に所属し、類似した理論・同じ専門性の育成を目指していても、その育成過程や教師教育者としての立場の捉え方には違いが見られることがわかりました。だからこそそれぞれの教師が自身の強みを生かして相補的作用を学生に与えられる点がメリットであると述べられました。「川口先生や金先生が公正や社会正義といった面を十分に扱ってくださるだろうと思っているから、自分は違った面を扱うことができる」という草原先生のことばが印象的でした。
自分の指導内容だけに集中するのではなく、教師(教育者)同士が連携し、互いに指導内容や方法を確認し合い、学生にも「○○先生の講義はこういうことを扱うので私は…」と意図開示していくことで、学生自身が見通しをもち、カリキュラムをマネジメントできるのではという提案もなされました。教師(教育者)同士が横のつながりをつくるのを個人の努力まかせにするのではなく、大学をはじめとした学校現場で意識的につくる制度や場が必要なのではないでしょうか。【文責:池田 優子】


2021.12.3
約1か月ぶりの授業となった今回は2コマ連続で行いました。加藤さんと池田が取り上げた論文はアムステルダム応用科学大学の教師教育者であるモニーク・レイグラーフの「WE ARE LIGHT THING?」という論文です。日本でも文部科学省から各大学に教職課程コアカリキュラムに基づく教員養成の実施が求められていますが、オランダでも同様に政府による教員養成への養成やアカウンタビリティシステムが導入されています。筆者らの大学ではより学生の可能性を開くため、学生が自由に学習プログラムを決める新たなカリキュラムを導入しました。ですが導入にあたって、教師教育者や学生がどのような不安やジレンマに直面したか、新しいカリキュラムにどのような意味づけを行ったかをこの研究では明らかにしています。
自由になることで「何をしたらいいか分からない」と学生が感じる不安、プログラムの質や学生のやりたいことと教師が教えたいことのバランス、信頼して任せることで思ったような成果が出ないのではというリスクや不安など教師教育者が感じる不安や葛藤が明らかになりました。
後半は本日から新たにスタートしたシリーズです。受講生が実際に行われている教員研修や教職課程の授業を観察・分析し、どのような専門性を育成しようとしているか、その専門性を育成するためにどのようなシステム、方法、場作りがとられているか発表します。最初の発表者である高見さんは草原先生が広島県立教育センター専門研修で行った「社会科授業の理論と方法―地域リソースの活用―」を前期で学んだトーマス・ガスキーの理論に当てはめて分析されました。受講された先生方の構成比や、反応を見ながら臨機応変に草原先生が講義内容を組み替えていった様子が丁寧に分析されました。児童・生徒の反応を見ながら問いや活動を変えていける柔軟性と、瞬時に次の手を考える瞬発力を高めたいものです。 【文責:池田 優子】


2021.11.5
本日の担当者、成さんと川上さんが取り上げた論文はカナダ・クイーンズ大学Tom Russell元教授と、ポルトガルのミンホ大学Maria Assunção Flores教授の共同研究である「DEVELOPING AS TEACHER EDUCATORS」という論文です。
私たちは学生時代に受けていた授業で先生に「もっと~を教えてほしい」「こうしてほしい」といった要求を伝えていたでしょうか。学生同士で感想を述べて終わっていた方がほとんどではないでしょうか。授業の振り返りシートやアンケートで勇気を出して書いてみても、返信はなかった、最後の授業で記入したのでその後改善されたかが分からない、という方もいると思います。教育実習生の授業に対する声を拾う→それを受けて教師教育者が自分の実践を省察し、授業を変えてみる→教育実習生の授業への態度の変容→教師教育者の信念の変容、といった好循環はどうすれば起こるのでしょう。
今日の論文は教育実習生の声をどのような方法で拾うか、拾われた声から明らかになった教師教育者に求められる資質・能力について述べられていました。そこで、受講生一人ひとりが考えた教師教育者に求められる資質能力をテキストマイニングしてみました。(写真)教師教育者には「人間への愛」は必要なのか。教科の教え方を教えることが第一義なのではないか。といった意見も出ました。皆さんはどう思われるでしょうか。
さらに、論文ではあまり触れられていなかった「批判的な声がだせない、そもそも自分の意見を言いづらいという教育実習生の“出せない声”の部分を掬い上げるために、教師教育者はどのような関係性や場を作ったらいいのか」という議論になりました。その中で、①教師教育者が「何でも言っていいよ」といってくれる ②教師教育者自身が授業作りで悩んでいる姿を学生に見せる といった教師教育者の開示的なスタンスが必要なのではないか、という結論に至りました。
【文責 池田 優子】

2021.10.29
本日も二部構成で、前半は「教師教育の構造変動と教師教育学研究 学会設立30周年を迎えて」の寄稿論文の分析を行いました。発表者の野瀬さんは教員養成や研修、ICTの活用によって教育実践の画一化が、教師の自律性の阻害につながることについて、教師の権限や自律性の拡大をいかに進めるかといった論文を取り上げ、分析してくださいました。
後半は、課題文献の講読でした。担当者の高見さん、田中さんが選んだのはカーネギー教育大学マヘリー C. ビートン教授の「OLD LEARNING NEW LEARNING」という論文です。「学びに古い、新しいがあるのか?」という担当者の疑問を基に分析され、OLD= 最新ではない教育観・子ども観に基づき,子どもへの教育実践や教師教育を行うことで、自身の被教育体験やかつての教育実践の成功経験も含まれます。一方、NEW=新たな理念、政策、研究による新しい教育観に基づいた子どもへの教育実践や教師教育をさします。
私たちが当たり前だと思っているやってきた教育実践はすでにOLDではないのか?
「これからの時代はICTを活用しよう、と言っている先生がチョーク&トークで板書が多い!」「時間を守りなさいと言っている先生が、授業にいつも遅れてくる!」などこれまで、言行一致でない教師教育者や教師はいなかったか?受講生のこれまでの被教育経験からOLD LEARNINGを探してみました。すると、ある受講者が教育実習生だった時、担当の指導教員が実習生の作成した指導案を用いて授業されたというエピソードが出てきました。よい実践があれば自分の経験にとらわれることなく実践するという教師の姿を教育実習生に見せ、“なってほしい教師”のロールモデルを示されたというNEW LEARNINGの事例を知ることが出来ました。教師や教師教育者は常に自分の実践を問い直し、NEW LEANINGを実践していきたい、と考える一方、OLDの中にも普遍的な実践や、ゆずれない良さがあるのではないか、子どもの声を全て、取り入れていくのが本当によいのか、という意見も出ました。 【文責 池田 優子】



2021.10.22
本日は二部構成で、前半は前回の続きである「教師教育の構造変動と教師教育学研究 学会設立30周年を迎えて」の寄稿論文の分析を行いました。発表者の高見さんはデジタル化による個別最適化の学びが進む中で、教師が求められる役割を論文から分析し、データ分析に偏った教育を子どもに強要するのではない防波堤としての教師、データをもとに実践を省察する反省的実践家としての教師、を示してくださいました。
後半は、今週からスタートした課題文献の講読でした。担当者の吉田さん、野瀬さんが選んだのはオランダの教師教育研究者Anja Swennen とイギリスの教師教育研究者David Powell共著の「Brave Research as a Means to Transform Teacher Education」という論文です。教師教育者が“勇気をもった、もっと挑戦的な研究”を行うにはどうしたらよいのか。
研究資金や、研究の場、参加者、そして何より教師教育者本人の“勇気”が必要だと述べられています。まず教師教育者が勇気をもった研究や教員養成を行うことで、教師が勇気をもった授業実践を行い、さらにそれが子どもたちに伝わるという流れを分かりやすいスライドで発表してくださいました。“勇気ある研究”とはどのようなものか。例えば、ジェンダーや外国人といったマイノリティの人々を扱う社会正義の授業開発を教員養成課程で行うことなど、広島大学の先生方の事例を交えながら考えていきました。教師教育者、もしくは教師が論争問題などを恐れず扱うことがなければ、後に教師となる学生も、子どもたちもそれらに触れる機会はなくなってしまいます。勇気をもって挑みたい、けれども…、という心のバリアの部分を今後、私たちはどう乗り越えていけばいいのか、今後の講義や現職教員研修を参観する中で手掛かりを捉えていきたいと思います。【文責 池田優子】


2021.10.15
本日は2021年に出版された「教師教育の構造変動と教師教育学研究 学会設立30周年を迎えて」に寄稿された8人の論者の方々の論考を受講生一人ひとりが行い、その論点を整理した内容を発表しました。まず、それそれの受講者が担当した論文のキー概念を3つ、ホワイトボードに書き出しました。共通するキーワードから“教師はどこまで専門性”・自立(自律)制を発揮できるか”をテーマにそれぞれの論者の提言を読み解いていきました。
プログラミング教育やICTの活用、英語教育の導入や個別最適化された学びの実践など急速に変化する社会に求められる教師の専門性はますます複雑化し、教員養成課程を担う大学にも様々な資質・能力の育成が求められています。教師の仕事が専門性を増していくほど、労働環境としては過酷なものになり、バーンアウトする可能性が生まれます。反対に、ICTの活用等で授業の効率化を図ることが教科の専門性を失わせ、教師の脱専門職化につながる懸念もあります。専門職と労働環境のバランスを自分ならどうとっていくか、考えることが出来ました。


2021.10.8
後期の教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究の授業がスタートしました。
今日はまず自己紹介を兼ねて、前期の基礎研究での学びについて受講生一人ひとりが振り返りました。続いて草原先生から発展研究での目標、今後のスケジュールについての説明があり、受講生でそれぞれの文献や発表担当箇所を決定していきました。前期で学んだ教師教育の理論の視点を用いながら、後期では現場で実際に行われている教員研修や公開授業研を調査・分析していきます。(文責:池田優子)

