教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究2021

教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究では、以下の目標に基づいて、教師教育理論を学び、実践について考察していきます。→基礎研究シラバス(ver1.1)

(1)教職課程の学生が,専門職としての➀知識・能力の形成と②教育観・教科観の再構築を支援する方策を、具体的にデザインできる。

(2)専門職としての➀知識・能力の形成と②教育観・教科観の再構築を促進・阻害している諸条件を、文献の読解を通して考察できる。



2021.06.25

今回の講義から,発表者が指定図書の収録論文から論文を1本選び,それについて報告する形式になりました。発表者の吉田さんが選んだ論文はMurray(2012)”Towords a new language of scholarship in teacher educators’ professional learning?”です。

教師から大学へ移行したひとは,教師を育てる”教師教育者”としての専門性のみならず,大学教員として”研究者”としての専門性も求められます。これらの専門性をいかに大学という職場に身につけるかが,本研究におけるMurrayの関心でした。MurrayはLiamという新任の教師教育者を対象に,Liamがいかに研究に取り組み,研究者としての専門性と教師教育者としての専門性を身につけるかをメタ的に記述する事例研究を行いました。

Liam氏が行った研究の具体は本文ではほとんど言及されていませんでしたが,教師を育てるひとの研究と教師実践には乖離が指摘され,それらの乖離と統合は,日本の大学や教職大学院でも同様に問題となっています。講義の後半では,論文のタイトルにある”new language of scholarship”とは具体的にどういう意味なのか,なぜ著者はこのタイトルを論文に付けたかについても議論しました。(文責:河原)

2021.06.11

前回の授業は「現職教師から教師教育者への移行」が中心テーマでしたが,今回は「大学院生から教師教育者への移行」を扱った論文2本を読みました。

ひとつは大学教員への就職を希望する大学院生(博士課程後期)を対象とし,TA(Teaching Assistant)経験と教師教育者としてのアイデンティティ構築にどのように影響しうるかを彼らの語りを通して質的に明らかにする論文です。もうひとつは,論文著者である大坂氏自身が「駆け出しの教師教育者」としての葛藤やその克服をセルフスタディの方法論によって明らかにした論文です。両者は「大学院生から新人教員」への時間的連続性をもつものとして読むことができます。

発表者担当者らは2つの課題論文に対して,「志」「技」「場」の3つの視点から,大学就職前の大学院生や”駆け出し”の教師教育者がいかに自身の経験を語り,課題に向き合い克服してきたかを分析して発表しました。グループワークでは,発表者らが提案した①大学院生が教師教育者へと移行するための「軽減策」,②教師教育者としての省察をあり方,③博士課程前期の大学院生だからこそのTA役回りなどについて話し合いました。教師として,TAとして,社会科教育を学ぶものとして,国語科教育を学ぶものとして…参加者のバックグラウンドやまさに今取り組んでいる中で直面している課題などを交えながら受講者間で活発な意見交流をすることができました。(河原)

2021.05.28

今回の講義では「教師」から「教師教育者」への移行を経験したひとに注目し,彼ら/彼女らが直面する課題やその克服の諸相を議論しました。

「教師教育者になる」ことは「教師になる」ことと少し事情が異なり,”突然”かつ”偶然”とともに移行が経験されることが先行研究でも指摘されてきました。例えば「先月まで学校で子どもに教えていた教師が,今月から大学生に教職を教えることになった」,あるいは「初任者への指導を任されるようになった」という感じです。さて,こうした”移行”を当事者はどのように経験するのでしょうか。

課題文献上では,①教師から大学の教師教育者へ移行した事例がありました。発表者担当者はそれに加えて,②教師から拠点校指導教員として初任者への指導にあたることになった人の事例,③教師から教育センター・教育委員会指導主事へと移行した事例,など複数の事例を追加調査の中で収集し,多様な”移行”を取り上げた発表をされました。

どの事例においても,ある日を境に教師教育者としての仕事に従事することになった方は,何らかの課題に直面し,自己の役割を問い直さざるを得ないということがわかりました。その一方で,自身の中でその役割をどのように見出すか,その課題をどのように解決していくかは当事者によって様々であるということもいえそうです。

大学では彼ら/彼女らに対してどのような支援が考えられるか,ブレイクアウトセッションを交えながら議論することができました。 (文責:河原)

2021.05.21

コロナの感染状況を受け,今回の講義からZoom上での開講となりました。

今回はAnja Swennen氏 , Kari smith氏, 武田信子氏の教師教育論について取り上げ,氏らにとっての教師教育者としての専門性・その専門性開発アプローチについて議論しました。

3者はそれぞれオランダ・ノルウェー・日本の大学で教師教育に従事していますが,教師教育を語る際の専門領域や教師教育者の専門性や専門性開発アプローチも異なるることが確認できました。氏らの論文を読む中で,①教師教育者としての成長プロセスに関して,教師教育者は「連続的に成長するのか」「非連続的な成長をするのか」という問題,②教師教育者の専門性開発アプローチに関して,専門性開発は「モデリング・省察の意図的実践」によって語るべきか,それとも「 研究への従事・メンタリング能力の獲得」によって語るべきかという問題,これら2つの論点が明らかになりました。

2021.05.14

今回の授業では,教師教育者の役割と専門的アイデンティティについて議論しました。
ルーネンベルクらは大規模な調査研究を通して,教師教育者の役割を「教師の教師」「研究者」「コーチ」「カリキュラム開発者」「ゲートキーパー」「ブローカー」の6つに整理しました。
広島大学で社会科の教員養成に携わる草原和博先生や川口広美先生はこの中でどの役割を果たしているでしょうか。草原先生はこの類型を用いて,自身の教師教育者としての役割やアイデンティティを語りました。これらはキャリアの中で不変的なものではなく,本人の信念や立場といった様々な要因によって変化していくこともあるでしょう。
また,Daveyは聞き取り調査を通して,教師教育者は5つの側面から専門的アイデンティティを織りなしていると表現しています。
今回は主に大学ベースの教師教育者の事例が中心でしたが,学校ベースの教師教育者となるとこれらの整理で説明することが難しいところもあるように思います。またこれらの類型はヨーロッパやニュージーランドという地域で作られたものです。日本ならでは,あるいは自身の所属機関ならではの役割なども十分に考えられるかもしれません。

2021.04.30

前回までの授業では,現職教員・教員志望学生の”成長”を取り扱った論文を読んできましたが,今回は授業「教師教育者」にかかわる論文を読みました。。
教師を育てること,すなわち”教えることを教える”とは何をどうすることなのでしょうか。
Anja Swennen らの論によれば,「教師教育者が教えたように教師は育ちます」。そして「教師は教師教育者が教えたように子どもに教えます」。しかし,教師が教えたいこと(教育的価値)と実際に教師に教えていること(実践)は教師教育者の意図からは乖離しがちであることが指摘されています。それゆえ,「言行一致」,教師教育者は自身の実践を言語化しそれを説明することが重要ということです。
堅気の職人のように「背中で語る」「見て盗め(学べ)」だけではいけない,それをいかに理論的根拠をもって示すことができるか教師教育者に求められます。教師教育関連の論文を読むと,いつも巨大ブーメランとなって自分に返ってきます…。(文責:河原)

2021.04.23

「教師の成長」はをいかにして語ればよいのでしょうか。教師教育研究において,①教師個人がもつ教育観・信念・アイデンティティの構築や変容から語るもの,②観察可能な行動としてとらえることができる教師の授業づくり・授業実践から語るもの,③個々の教師が置かれている状況や文脈,これらと①と②の関係性から語るものなどが考えられてきました。前回の授業では,「現職教師」の成長を主に②の視点から語る論文を検討してきましたが,今回は「教員志望学生」の成長を主に①(&②)の視点から語る論文を検討しました。

「大学での学びは現場に出ると使えない (そのそも大学で何を学んだっけ?))」という言説に代表されるように,「学生→教師」への移行過程において,大学での学びの「洗い流し」という現象が起こるといわれています。検討論文の著者である大坂は,教科指導法(特に社会科)での学びの「洗い流し」が「学生→教師」への移行過程に限らず,大学における4年間の教員養成課程の中でも起きる現象であること,教師への変容プロセスは決して一様ではなく様々なルートを経ること,これら2点を実証的研究から明らかにしました。さらに,ここで得られたデータをふまえ,教員志望学生が直面しうる「危機」を意図的・計画的に組織した教員養成課程のカリキュラムを提案していました。

 今日の報告を担当した髙見さんと野瀬さんを中心に,受講者が学部生の時に抱いた葛藤や直面した困難についての体験も共有しつつ,終始和やかな雰囲気で授業が行われました。(文責:河原)

2021.04.16

 いよいよ今回から受講者による発表が始まりました。今回の報告を担当された池田さんは課題論文のポイントを端的にまとめつつ,ご自身の勤務経験に基づく具体的なエピソードも交えながら報告をしてくださいました。

 今回の授業のポイントは大きく2つでした。1つ目は教師の成長(プロフェッショナル・ディベロップメント)をどうとらえるか問題,2つ目はその成長はいかにして起こるのかという問題です。今回の論文の著者は「教師の成長は子どもの変化をもって説明されるべきであり,子どもの変化を見取ることで教師は成長する」ということを述べていました。「教師教育の射程」の問題(教師教育を教師教育者・教師の2者間で語るのか , 教師教育者・教師・子どもの3者間で語るのか),教師の成長プロセスの捉え方・研修アプローチ(「従来のモデル」VS「オルタナティブ・モデル」)について,参加者の間で議論を深めることができました。(文責:河原)

2021.04.09

 第1講が対面・オンライン形式を併用して行われました。まず草原先生から授業目的や計画の説明があり,次に受講者から授業への期待・意気込みが語られました。

 今回の授業では「日本の教師教育者とは誰か」「教師教育者のペダゴジー」について考えました。日本における教育制度・文化の中で「教師を育てる人」とは具体的に誰で,その人がもつべき専門性とは何なのでしょうか。教師教育者が教師を支援することと,教師が子どもを育てるように育てることと同じなのでしょうか?これらは教師教育について考える上で根本的な問いの1つであるいえます。

 本授業を通して,私たちはどう変わっていくでしょうか?変わらないでしょうか?私たち自身のことも振り返りながら,これから文献を読み進めていきましょう!(文責:河原)