教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究2022

2022.5.20

 本日,「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究」の第4回が行われました。授業は下記のような流れでした。
➀ 「好子の部屋」
② 気になる一文を選んで共有しよう
③ M1による発表「第3章 社会化の限界」

 どれも興味深かったですが,今回は③の中で最も面白いと思ったスライドをご紹介します。右上のスライドは発表者の方が作成してくださったもので,ローティが,教師が教職に参入して典型的に経験する一連の社会化段階を検討した節をまとめています。
 このような社会化には,普通教育と職業教育の2つの普通教育から成る「フォーマルな学校教育」段階,教育実習を中核とする「媒介された参入」段階,入職後に行われる「仕事に従事しながらの参入」段階の3つの段階があるといいます。ローティは各段階の検討を通して,教職を「総合的な導入システムが高度には発達していない」(p.99)職業であると評します。

発表者が作成したものを引用。

 私自身これまで「フォーマルな学校教育」と「媒介された参入」を経てきたわけですが,ローティの指摘には的を射ているものが多いようです。例えば,教育実習の様子(期間や指導教員との関係)は思い当たるものがあります。他の講義の参加者のみなさまも,ご自身の経験と照らし合わせながら読めるところが多かったのではないでしょうか。今後,ローティの指摘をどのように教員養成・現職研修に活かしていけそうか,より深めていければと思います。
【文責:神田】




2022.04.22

 本日,「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究」の第3回が行われました。
 本日より5回は以下の文献を購読します。

ダン・ローティ(著)佐藤学(監訳)
『スクールティーチャー―教職の社会学的考察―』学文社,2021年


 発表者は,以下の3つの質問を軸としつつ,対象文献から自由に1つの章を選択して,質問に答えていきます。
①「教師とは何者か,どういう職業か,どういう専門職か」
②「教師は,なぜ保守的なのか」
③「学校は社会変革の拠点に,教師は社会変革の担い手となりうるのか」

 本日の発表では,①②の質問に対して,第2章「リクルートとその追認」を要約しながら,答えて頂きました。
 1960年代の調査に基づいて1975年に執筆されたものであるうえに,アメリカの文脈で執筆されたものであるにもかかわらず,ローティの見解は現在の日本にも該当しうる概念や説明を示していました。例えば,「現状の学校を魅力的と感じるものが再び教師になりやすい」というのは,自分や周りの人を振り返ってみて,ありそうだなと思わせてくれます。

岡井・首藤発表資料より引用
同上

 また,ディスカッションでは,興味深い意見交換が活発に行われました。作成者個人としては,「学校教師も,将来教師になりたいと考えている学生にとっては教師教育者なのだから,どのような教師であるべきかをモデリングする必要があるのではないか」という指摘を興味深く聞かせていただきました。学校改革に向けた長期的な視点として受け止めました。
 難解な文献だと思うのですが,丁寧にまとめてくださった発表者の方々,お疲れ様でした!
 次回は5月20日と間隔が空いてしまいますが,今後ともよろしくお願いいたします!
【文責:神田颯】


2022.04.15

 本日,2022年度前期「教職課程・現職研修デザイン基礎研究」の第2回が行われました。

 「なぜ私(草原先生)は教師教育者の研究を始めたのか・・・きわめて個人的な問い」をテーマに,3つの文献を購読し,ディスカッションを行いました。購読した文献は以下の3つです。

〇草原和博「社会科教師を育てる教師教育者の専門性開発-欧州委員会の報告書を手がかりにして」『教科教育学研究の可能性を求めて』風間書房,281-290,2017

〇岡田了祐・堀田諭・村井大介・渡邉巧・田口紘子・田中伸「米国の教師教育者にみるprofessional identity の多様性-社会科教育を事例とした教科観と教師教育者観に着目して-」『岐阜大学教育学部研究報告. 教育実践研究・教師教育研究』20,55-65, 2018

〇草原和博「教師教育者の専門性開発の理念と方法-教師教育の質を高める3つのアプローチ例-」社会系教科教育学会編『社会系教科教育学研究のブレイクスルー理論と実践の往還をめざして-』風間書房,310-320,2019

 ディスカッションでは,「3本の論文同士の関係性は?」「3本の論文の中で一番自分にビビッときたものは?」という問いについて考えました。ロールモデルとしての教師,self-study,同型性,社会的責任など,今後も重要となるであろうキーワード・論点が多く出されました。例えば,同型性については賛否が分かれました。賛成派は,「チョーク&トークでは学習者に伝わらない」という指摘がありましたが,反対派は,「教師教育者の教え込み・再生産になってしまう」「大学は教員養成を主目的とする師範学校ではなく,教育を批判的に見とる力を育成すべきだ」という反論もありました。一方,「批判的に捉えることも含めて同型性である」という賛成派の意見もありました。

また,講義の冒頭では,新しく参加された2名の自己紹介と,「好子の部屋」初回の放送でした。粟谷先生からは駆け出し教師教育者の悩みや葛藤,実際に行った講義を共有していただきました。悩みや葛藤が前職(実践者)の経験が影響している可能性や,「先輩に聞く」という対応の再生産の側面,教科指導法が教科内容の講義に比べて多くの大学ではマイノリティとなっていることが指摘されました。

次回からは,『スクールティーチャー―教育の社会学的考察―』の購読です。今日は「教師教育者(の専門性開発)」が中心でしたが,今度は「教師」が中心になります。どのようなディスカッションになるのか楽しみですね!

最後までお読みいただきありがとうございました。【文責:神田颯】


2022.04.08

本日,2022年度前期「教職課程・現職研修デザイン基礎研究」の第1回が行われました。

今期は受講生5名,聴講生5名の計10名が参加し,基本的には受講生による発表と全体のディスカッションで進んでいきます。なお,EVRI(広島大学教育ヴィジョンセンター)で実施されている「教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロップメント講座」(リンク)の資料としても活用されます。

講義全体は大きく分けて「教師」「教師教育者」「教師教育者教育者」の3部構成で展開されます。それぞれの部で問いと指定図書が設定されており,受講生は設定された問いに答えることのできる章を指定図書の中から選択・発表してもらいます。例えば,第1部の「教師」では,ダン・ローティ(著)佐藤学(監訳)『スクールティーチャー:教職の社会学的考察』学文社,2021年 を読み,「教師とは何者か,どういう職業か,どういう専門職か」「教師は,なぜ保守的なのか」「学校は社会変革の拠点に,教師は社会変革の担い手となりうるのか」という問いに回答していきます。

また,聴講生として粟谷好子先生(リンク)(群馬大学)も参加しており,各授業の頭で粟谷先生が教師教育者としての経験を共有する「好子の部屋」を行うことになっています。

本日第1回は顔合わせということで,①自己紹介,②授業ガイダンスが行われました。①自己紹介を兼ねて,自身の研究関心や経験等を絡めながら,なぜこの講義を履修したのか?を言語化する活動が行いました。多様なバックグラウンドや信念を持つ参加者が集まっていることがわかり,今後の楽しい議論を予感させるような自己紹介となりました。

次回は,講義全体の導入として,「なぜ私(草原先生)は教師教育者の研究を始めたのか・・・きわめて個人的な問い」をテーマについて,いくつかの文献を読んで,ディスカッションを行う予定です。どのような回答になるのか楽しみですね! 最後までお読みいただきありがとうございました。【文責:神田颯】


教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究では、以下の目標に基づいて、教師教育理論を学び、実践について考察していきます。→基礎研究シラバス(ver1.1)

(1)教職課程の学生が,専門職としての➀知識・能力の形成と②教育観・教科観の再構築を支援する方策を、具体的にデザインできる。

(2)専門職としての➀知識・能力の形成と②教育観・教科観の再構築を促進・阻害している諸条件を、文献の読解を通して考察できる。