(1)教師教育者の専門性向上に関する欧米の研究動向を分析し、日本の現職研修の特色、意義や課題、そして改善の方策を提案できる
(2)教師教育者の視点から現職研修の取組を観察・分析し、日本の現職研修の特色、意義や課題、そして改善の方策を提案できる
2022.12.23
教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究の第7講が実施されました。本日の講義は,スウェネンほか(2020)『教師教育者になる―実践改善のための研究に基づいた手法―』の購読・検討(3)でした。今回は下記の第11章を読みました。
Shagrir, L. (2020). ‘International semi-collaborative research initiative: A critical reflection of the research process’, Swennen, A., White, E., “Being a teacher educator: Research-informed methods for improving practice”
今回のキー概念は,「研究開発コミュニティ(Research & Development Communities: RDCs)」です。RDCsとは,教師教育者に専門性開発の機会を提供したり教師教育者のイメージ向上を図ったりするために,欧州教師教育学会(通称,ATEE)の下部組織にあたる共同研究コミュニティのことです。

草原先生からのPrincipal Indicator(PI)の紹介にもあったように,日本において研究者養成の機会はあまり多くなく,徒弟的な学びが主となっている現状があるようです。共同研究への参画による研究者(教師教育者)としての学びの制度化は,重要な論点といえるでしょう。
今回の授業では,とりわけ,共同研究のプロセスに焦点を当てた議論が展開されました。例えば,誰がどのようにデータを収集するのか,収集したデータの利活用は誰でも行ってもいいのか,といった問いをもとに議論がなされました。議論を通して,欧州のRDCsの実態からみられる日本への示唆を検討することができました。
次回も似たテーマのようなので,今日の議論と接続できると楽しそうです!【文責:神田】
2022.12.16
教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究の第7講が実施されました。本日の講義は,スウェネンほか(2020)『教師教育者になる―実践改善のための研究に基づいた手法―』の購読・検討(2)でした。今回は下記の第11章を読みました。
McPhail, A. (2020). ‘Teacher educator as researcher: Striving towards a greater visibility for teacher education’, Swennen, A., White, E., “Being a teacher educator: Research-informed methods for improving practice”
今回のキー概念は,タイトルにもある通り,「研究者としての教師教育者」です。例えば,草原先生は「研究者」でもあり「教師教育者」でもあると思います。「教師教育者」が「研究」することにはどのような意味があるのでしょうか。ここには政治的圧力やキャリアアップといった意味合いもあるでしょうが,著者は,研究が教師教育者コミュニティに参加するための動機づけになる,ということを示唆していました。教師教育者を捉える一視点として有益なものだと思われます。

今回は時間の制約で議論できませんでしたが,教師教育者は「なぜ」「どのような」研究をしているのか(すべきなのか)といった論点も今後気になるところです…!
また,教師教育者の役割の一つとして,教員志望学生や実習生に参考になる研究を提供することが挙げられていました。この点は議論が盛り上がりました。「もしあなたが教師教育者だったら,『実習で参考になる文献を教えてください』という教員志望学生にどのような文献を紹介しますか」という問いをもとに,各々が文献を紹介しました。参加者は様々な視点で文献を紹介していて興味深かったですね…!よい研究のタネが見つかってよかったです。
次回は,研究,特に共同研究の方法論に関する章のようです。今回の章ともかなり接続しそうですね。楽しみです!!
【文責:神田】
2022.11.25
教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究の第5・6講が実施されました。本日は,1・2コマにわたっての開講でした。前半の講義は,前回と同様,講義全体の導入に位置づく回で,授業研究をめぐるパノラマ図を描くために下記の文献を購読・検討しました。
坂本将暢(2022)「学校を基盤とした協働型授業研究」日本教育方法学会編『教育方法51 教師の自律性と教育方法』図書文化,123-136.
パノラマ図を構成する第4の要素は,「授業研究における教師の専門性開発」「教師の職業的熟達化を図るための授業研究の方法論的なシステム化」でした。授業(校内)研究における教師の専門性開発の実態とはどのようなものなのでしょうか(そもそも何をもって専門性が開発された・専門性を開発した[professinal development]と言えるのでしょうか)。調査・研究編で具体をもとに検討出来たら面白そうです。また,本論で提示されていた授業研究システムと,調査・研究編で観察したシステムの違いを考察してみても面白そうです。


後半の講義は,Being a teacher educator: Research-Informed Methods for Improving practice の購読・検討(1)でした。今回は第10章を読みました。
Elizabeth White, Miranda Timmermans, and Claire Dickerson「LEARNING FROM STORIES ABOUT THE PRACTICE OF TEACHER EDUCATORS IN PARTNERSHIPS BETWEEN SCHOOLS AND HIGHER EDUCATION INSTITUTIONS」
今回のキー概念は「SBTE(学校ベースの教師教育者)」「CBTES(機関ベースの教師教育者)」「Stories(物語)」の3つでした。とりわけ,SBTEの専門的学習・専門性開発(これら2つの概念も面白いです…!)という考え方は,日本と欧州の文脈が異なるといえど,示唆的なのではないでしょうか。
授業の後半では,実際にいくつかのStoriesを読んでみて,模擬研修を行ってみました。具体的な状況を想定できる分,かなり議論が盛り上がったように思います。個人的には議論がとても楽しく,Storiesの理論的背景をもっと検討してみたくなりました。
どちらの講義も議論が盛り上がり,示唆の多いものでした。次回も楽しみです。
【文責:神田】
2022.10.28
教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究の第4講が実施されました。本日の講義は,前回と同様,講義全体の導入に位置づく回で,授業研究をめぐるパノラマ図を描くために下記の文献を購読・検討しました。
黒田友紀(2022)「校内授業研究を通した自律性を保障する学校文化の醸成」日本教育方法学会編『教育方法51 教師の自律性と教育方法』図書文化,108-122.
パノラマ図を構成する第3の要素は,「学校変革における授業研究の重要性」「授業研究改革と,学校文化の形成における教師個々の主体的・自律的な活動への参画(教育的リーダーシップ)の重要性」「 学校の実態やビジョンに合わせた,多様な授業研究を通した学校文化のあり方や,学校文化の変革の方法が存在すること」でした。3つの異なるタイプの授業研究を事例に,なぜどのような授業研究が望ましいのかを検討しました。

本日の講義で興味深かったのは,授業研究の望ましさを検討する際には,2つの論点があったということです。すなわち,①各個人(特に,校長をはじめとするリーダーシップを発揮する人)が考える望ましさとは何か,②その学校文脈における望ましさとは何か,の2点です。前者は,草原先生の「あなたなら3つの授業研究の内,どれがいいですか?」という発問に対して,受講者の中でも意見が割れました。
今回の論文は,他にも専門家共同体やサステナビリティなどキー概念となりそうなものが多く登場しました。観察が楽しみですね。
【文責:神田】
2022.10.21
教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究の第3講が実施されました。本日の講義は,前回と同様,講義全体の導入に位置づく回で,授業研究をめぐるパノラマ図を描くために下記の文献を購読・検討しました。
吉永紀子(2022)「子どもと教師の自己変革の場としての授業づくり―教師と研究者との協働による授業研究過程を省察する―」日本教育方法学会編『教育方法51 教師の自律性と教育方法』図書文化,108-122.
パノラマ図を構成する第2の要素は,「教師ー研究者関係にみる非対称性と権力関係」「授業研究における研究者の役割・立場性」でした。研究者の一般的なタームで教師の授業を語った方がいいのか,それとも教師の個別的なタームで授業を語ったほうがいいのか…。吉永論文では,「問い返し」という既存の一般的な概念でもって語ることを避け,「先生攻撃」という教室内の言語を尊重した省察の在り方が示されていました。先週の宮原論文の現象学的記述とも通ずるところがあるように思います。

セメスターの後半では,実際に草原先生やそのほかの先生が参加する授業研究を観察する機会があります。指導・助言の際には,どのような「言葉」を選んでいるのか。(子どもや)教師の自己変革を促すものとなっているのか。もっと言えば,授業研究を観察する「私たち受講者」もその世界を構成する一因として考察していく必要があるかもしれません。このあたりは一つの重要な論点となってきそうです。
少しづつ授業研究をめぐる論点・争点が見えてきたように思います。研究と実践をいかに接続していくか楽しみです。
【文責:神田】
2022.10.14
教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究の第2講が実施されました。本日の講義は,講義全体の導入に位置づく回で,授業研究をめぐる論点のパノラマ図を描くために下記の文献を購読・検討しました。
宮原順寛(2022)「授業研究者をとりまく教育臨床研究の倫理に関わる問題群」日本教育方法学会編『教育方法51 教師の自律性と教育方法』図書文化,108-122.
パノラマ図を構成する第一の要素は,「教育臨床研究の倫理に関する様々な問題」(発表者のまとめを引用)でした。授業研究の際にどのようなコメントをするのか,なぜそのコメントは望ましいのか,授業者はそのコメントをどのように受け取るのか…。授業研究では,粗探しをしてしまうのか,感動ポイントを探すのか…。現象学的な記述を試みた宮原論文は,私たちの経験と反響する具体的なエピソードが豊富で共感できるところも多かったと思います。

最後のディスカッションでは,主にQ1・3を中心について意見を交換しました。興味深かったのは,参加者は自分たちが「言われたこと」は強く覚えているにも関わらず,「言ったこと」については意外と覚えていない可能性があるのかもしれない,ということでした。個人的な感想としては,教師教育者は意識的に発言・コメントをしたり,省察したりすることが重要なのだろうなということでした。
実際に授業研究を観察するときには,現象学的にみてみるのもありなのかもしれません。
【文責:神田】
2022.10.07
本日より「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究」が始まりました!
受講生4名・聴講生6名の計10名でのスタートとなりました。
後期の授業は,3部構成で実施されます。
【第1部】導入
【第2部】文献購読編
【第3部】調査・研究編
導入では,日本教育方法学会編 『教育方法51 教師の自律性と教育方法』図書文化 の所収論文を4本購読します。変革や学校文化など前期でも触れたキーワードが再登場しているので,前期の学習成果と連動出来そうです…!
文献購読編では,昨年に引き続き,Being a teacher educator: Research-Informed Methods for Improving practice を購読します。昨年の受講生も数名いるので,思い出しつつ議論を深めていけそうです。

調査・研究編では,草原先生やその他の実践者の教師教育実践を観察し,専門性開発の理論と方法を批判的に検討します。1年を通して得た理論と実践が往還できるといいですね!
参加者全員で実り多き特講になればと思います。【文責:神田】