(1)教師教育者の専門性向上に関する欧米の研究動向を分析し、日本の現職研修の特色、意義や課題、そして改善の方策を提案できる
(2)教師教育者の視点から現職研修の取組を観察・分析し、日本の現職研修の特色、意義や課題、そして改善の方策を提案できる
2021.01.15

今回の発表では,中学校・高等学校の社会科研修会における,草原先生の振る舞いを撮影したビデオを用いて分析し,行動に現れる教師教育者としてのメッセージを読み取りました。具体的には複数の学校での研修会に共通する草原先生の二つの行動を切り取りました。
一つ目は参加者からの質問に対して直接的な答えを言わないことでした。この行動には「自分がいなくても今後の学校の授業改善がうまく回るようにする」意図があるのではという話し合いになりました。二つ目は会場の空間を最大限に活用しようと動き回ることでした。この行動にはアクティブラーニングを教師教育者自身がやってみせることや,登壇者と参加者の権威性が働きすぎないように,参加者に寄り添って講演を行う姿勢が表れているのではという話し合いになりました。
ディスカッションの中で,草原先生からも無意識ではあったものの,学生側の指摘に納得されていました。本発表の成果として,改めて「教師教育者のメッセージは振る舞いにあらわれる」という理論を最も身近な事例で検証できた点を挙げられます。【文責:今井祐介】
2021.01.08

今回の発表では、昨年行われた小学校社会科研修会において、登壇者の草原和博先生がどのような立ち振る舞いを行なったか分析することで教師教育者の専門性を明らかにしようとしました。なお、分析視点として①「一段階上の教授」「アクティブで自律的な学習の促進」「明確なモデリング」「葛藤とジレンマへの対処」という教師の教師としての役割と行動(ルーネンベルクら、2017)、②小学校の文脈性を用いました。
分析の結果、次のような成果が得られました(画像)。①教師教育者の専門性のうち、例えば「一段階上の教授」では、現場の教師のニーズを踏まえた講演会の構成の工夫や、キャッチーな名称の理論を提示することで現場の教員の耳に残りやすくする工夫が見られました。また、②小学校の文脈性では、「学級担任制」「小学生の発達段階」「学校内の連携の強さ」といった小学校の側面に合わせた講演を設計していることが分かりました。
本発表では「小学校」「社会科」という属性を持つ研修会に焦点を当てました。次回以降は「他校種」「他教科」の研修会についても分析を進める予定です。これらの属性によってどのように研修会の色が変わってくるのか楽しみですね。【文責:安藤瑛啓】
2020.12.18

今回の講義から、第2部に入り、「授業研究会での観察と経験を語る」というテーマで進んでいきます。今回は、前期の講義の知見を生かした地理歴史科教育論の実践を振り返ることと、教師教育者=TAとしての1年間の実践の成果と課題について、今井と宇ノ木で発表しました。
前半の講義実践の振り返りでは、私たちが考えた講義の意図と流れを簡単に説明し、それぞれのパートにおける成果と課題を述べました。成果物からみると、個人的レリバンスについて、職業の視点から面白く、説得力ある形で説明されていたという成果はあったが、用いられる見方・考え方には、どんな意義・有用性があるのかについては答えられていないという課題が挙げられました。これは、ケーススタディにおける生徒の情報の不足から起きているのではないかと推測しました。
後半のTAとしての振り返りとして、広島大学のTA制度について概観し、今井・宇ノ木のそれぞれの実践と悩み・葛藤を語り、それをいかにして乗り越えようとしたかを語りました。今井は、先輩に比べ、建設的な批判ができていない自分に悩み、チームティーチングの一員として自己反省することもまた、カリキュラム改善への貢献だと認識を改めることで乗り越えようとしました。宇ノ木は、フィードバックがうまくいかない自分に悩み、教員や先輩TAからアドバイスをもらうことで乗り越えようとしました。
今回は主に、大学院生の教師教育という視点で発表しましたが、次回からは教師教育者「草原和博」について授業研究会をもとに分析していきます。【文責:宇ノ木啓太】
2020.12.11

今回の講義では、前回チャプター(9)で獲得した示唆的な知見を整理・活用して、日本の教師教育者の専門性形成に示唆することを議論しました。チャプター(9)の示唆的な知見として、教師教育者の専門性形成に寄与するような体系的な支援のための制度や機会の存在がありました。例えば、メンター制度や教師教育者の専門性形成に関する研究所による学習プログラム、学校と連携した研究開発プロジェクトがみられ、いずれも専門性形成に影響を与えていました。 そこで、本発表では、先行研究や聞き取り調査から日本の教師教育者の専門性形成についての特徴をいくつか例示・考察しました。その結果、日本においては教師教育者の専門性形成のための体系的な支援は乏しいこと、教師教育者はそのアイデンティティを起点に試行錯誤して自身の専門性形成を行っていることが考察されました。最後に、考察をもとに架空のケーススタディを発表者から提示して、教師教育者の専門性形成のための支援の在り方についてオーディエンスと議論を深めました。今後は、実際の教師教育者の活動を見て、今まで獲得してきた理論を活用して教師教育者の専門性形成についての理解をより深め、今後のよりよい教師教育者の専門性形成の在り方を追究していく予定です。【文責:神田颯】
2020.12.04

今回の講義ではヨーロッパの教師教育者を対象としたライフヒストリー研究の報告をしているチャプター9の翻訳・要約を行いました。本章では、4人の教師教育者のこれまでの足取りを質的に調査することで、教師教育者の個人的特性と仕事の文脈の相互作用について明らかにしようとしていました。結果としてどのようなことが分かったのでしょうか。
第一に、教師教育者の多様な「採用期(recruitment)」の在り方です(図)。例えば、上の図を見るとミリアムとモナは学校の教師、シャーリーとカルロスは大学の研究者という異なる背景を持っていることが分かります。そしてその背景が教師教育者としての現在の姿に影響を与えていることが考察されました。第二に、教師教育者になって2年ほどの期間に該当する「導入期(induction)」への支援が重要であることが示唆されました。第三に、その後のキャリア形成において自己主導と地域の文脈の相互作用が専門性形成に関わってくることが明らかになりました。
本章ではヨーロッパの教師教育者の軌跡を見てきました。では、彼らが直面した困難や課題、そしてそれに対する支援は日本においても同様に見られるのでしょうか。次回の発表では日本の教師教育者について考察していく予定です。【文責:安藤瑛啓】
2020.10.30

今回は前回のチャプター2、前々回のチャプター3を踏まえてこれまでの発表の振り返り、および重要な概念整理、そして日本の教師教育者の専門性開発への示唆を発表しました。
【振り返り】では、チャプター2の担当者はチャプター2で扱われていた量的・質的研究のリサーチ・クエスチョンとその答えを簡潔にまとめました。チャプター3の担当者は筆者らが開発した概念モデルが象徴する意味内容について、開発者のKari.Smith. 先生へ送信したメールの回答をもとにまとめました。
【重要概念整理】では、チャプター3での「アイデンティティ形成」、チャプター2での「エンパワーメント」という概念を整理しました。
【日本の教師教育者の専門性開発への示唆】では、上記の概念からみた日本の教師教育者の専門性開発における課題の解決策として、セルフスタディが紹介されました。次回の特講は12月です、それまでは履修者は広島県の教員研修を観察し、12月以降にその成果を集中して共有します。【文責:今井祐介】
2020.10.23

今回は、前回に引き続き、InFo-TEDの『Teacher Educators and their Professional Development』の翻訳・要約について発表がありました。担当章はチャプター2です。チャプター2は鍵概念となる「概念モデル」と政策立案者に対する提言について書かれています(図)。
InFo-TEDは世界各国で教師教育者のスタンダードが策定されているという動向に危機意識を持っているようです。なぜなら、彼らは教師教育者の複雑な実践はこのような規範的な枠組みで捉えることが難しいと考えているからです。そこで、彼らが提案するのが地図・共通言語として機能する「概念モデル」です。「概念モデル」は教師教育者同士の対話を促しますが、現状対話を行うコミュニティが不足していると彼らは訴えています。したがって、本章の最後では、政策立案者にその支援をお願いしたいと提言しています。
「概念モデル」や政策立案者への提言を通してInFo-TEDの姿勢が少しずつ明らかになってきました。一方で、「概念モデル」の詳細についてはまだわかっていないことが多くあります。次回の発表に期待したいです。【文責:安藤瑛啓】
2020.10.16
今回より、InFo-TEDの『Teacher Educators and their Professional Development』の一部を分担して読んでいきます。今回はチャプター3の「Researching the professional learning needs of teacher educators: results from international research」を翻訳し、まとめて発表しました。この章は、高等教育機関を基盤とした教師教師者を対象にした混合調査をまとめた章です。
インタビューから様々な教師の声が明らかになり、教師教師者の様々な悩みが明らかになりました。印象に残ったのは、学校現場で働くよりも大学で働く方が1日が長く感じるというエピソードでした。草原先生からも大学教員の孤独さを教えていただき、共同研究やコミュニティ形成の必要性について考えました。
今後、次回の発表を踏まえ、次次回で日本のおける教師教育への示唆を考えていきたいと思います。【文責:宇ノ木啓太】
2020.10.09

本日より、本格的に「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究」が始まりました。本講義では、①教師教育者の専門性向上に関する欧米の研究動向を分析し、理論や研究方法論の日本での活用可能性を議論できること②教師教育者の視点から現職研修の取組を観察・分析し、日本の現職研修の特色、意義や課題、そして改善の方策を提案できることを目標としています。そこで、今回から数回にわたって、InFo-TEDという教師教育者を支援する国際的な団体について研究していきます。今回は、InFo-TEDについての概説、分析対象の章構成や執筆者、序章について発表しました。講義中は、InFo-TEDが提供している「Conceptual Model」というモデルについては議論が弾みましたが、分からないことも多くありました。今後は、そのモデルを含めて分析対象についての内実を明らかにして、日本への示唆を得たいところです。【文責:神田颯】